2010-11-01から1ヶ月間の記事一覧

木枯らしまでに

澄み渡った青空から山肌に向かって秋風が吹き降りると、赤や黄色の葉が舞い上がっては谷底へと落ちて行く。 松五郎は風をやり過ごすと、顔を上げて行く手を見た。谷を渡る吊り橋は、半ばまで出来上がっていた。山深い里の秋は短いものの、木枯らしが吹く前に…

喜びの呪文

「ゼンダイミモーン! ゼンダイミモーンだよ、姉ちゃん!」 小学校に入学したばかりの弟のタカシが、ミサキの部屋に飛び込んできた。「今度は何」 ミサキは机に向かったまま、手を休めることなく尋ねた。タカシの「ゼンダイミモン」はこのところ毎日発生して…

休日のギタリスト

ビンテージのレスポールを買った。 久しぶりの休日にやることもなく、散歩先で通りがかったギターショップでの衝動買いだった。 高校時代にギターにハマり、学業そこのけでバンド活動に邁進していたのも今は昔、三流大学に進学し、就職してからは自分がギタ…

星の物語

ジョンが印象的に覚えている教師の話は、星についてだった。「かつて天には星が輝き、人々は星を見て物語を作った」 今は亡き老教師のレスリーは頭上を覆う巨大なドームを指差しながらそう語った。 幼いジョンたちは人工芝の小さな丘の上に車座を作って、老…

全力でむしれ

「もうむしり疲れたよ兄貴・・・・・・」 修二の指はすっかりふやけて赤くなっていた。 しかし兄の雄一は険しい表情で、決して手を休めない。「黙ってむしるんだ。わかってるだろ」 修二はもう投げ出してしまいたかったが、勝負がもう引き返せないところまでヒート…