水滸伝(北方謙三)

一日一冊ペースで本について書いていったらさすがにもたないけども(^^;
まぁ、しばらくは書くものがあるだろう。

集英社文庫 水滸伝BOX

集英社文庫 水滸伝BOX

ベストセラーなので今更私が紹介するまでもないのだが・・・。

これはまぁ誰が読んでも面白いんじゃないだろうか。
と思ったが、冷静に考えると男性向きなのかな。
うちの相方は魯智深(登場人物の一人)の頭が赤銅色に光ってるところで読書停止w
ちなみに1ページ目であるw

水滸伝』と言えば中国の有名な奇書であり、内容はともかくタイトルを知らない人はあまりいないんじゃないかと思う。
ごくかいつまんで言うと、世の中からはみ出した108人の英傑たちが梁山泊という山塞にこもって活躍するという物語。
梁山泊は梁山湖という湖のほとりにあるため、水滸伝(水のほとりの物語)というタイトルが付いている。

馬琴の『里見八犬伝』が『水滸伝』にインスピレーションを受けていることは有名である。
人数が108人から8人へとスケールダウンしてはいるが、複数の個性的な英傑が集って巨大な敵に立ち向かうという構図は同じだ。
そう考えるとサイボーグ009とか、X−MANとか、複数の英傑(特殊能力者)が活躍する物語の原型にあたるのが『水滸伝』だと言えるかもしれない。

何しろ古い物語だから、現在までに多くの作家さんがこの『水滸伝』を手がけている。
その中でも何故に北方謙三の『水滸伝』が注目されているかと言うと、一つには物語を大胆に再構成しているという点が挙げられる。
もともと口承文学だった『水滸伝』は、多くの選者の手を経て形成された。
その結果、物語の中に矛盾があったり、人物の性格が首尾一貫していなかったりという特徴があった。
今で言うならいろんな人が作った二次創作作品を全部まとめちゃった、みたいな感じの物語だったわけで、登場人物の数からしてもとてつもない巨大な物語になってしまっていた。
言わば繁栄しすぎて腐りだしていたとでも言うか(違

北方謙三はそんなごった煮状態の『水滸伝』を筋の通った物語に再構成した。
忠実な現代語訳ではなく、意訳してさらに独自の世界観を盛り込んだ。
下敷きは確かに『水滸伝』だが、これはもう別の新しい物語だと言ってもいい。

最初に『水滸伝』の一巻を手に取ったとき、正直なところ、
「はぁ、まぁ筋書きはわかってるけど・・・まぁ読んでみるかぁ・・・」
という気持ちだった。
読むものが無くて暇だったんでw
北方謙三の本って読んだことなかったから、どんな作家なんだろうなぁという興味はあった。

読んでみたら面白かった。
ごつごつした原石じみたぶった切りの文章も、『水滸伝』の世界にはマッチしていた。
スピード感と緊迫感のある文章だねぇ。
喩えるなら剛速球みたいな。一発KO狙いのストレートパンチのような。
スマートというのとも違うし、洗練されているというのともちょっと違う、短い文章の背後に込められたものは、背中で語る男の美学に似てた。
なるほど、北方謙三がハードボイルドの大御所なのも納得だ。

もともと『水滸伝』自体が史実の物語というわけではないので、これは歴史小説では決してない。
歴史小説ではないのだが、本当にこういう連中がいたんじゃないかと錯覚させるだけのリアリティを持っている。
その辺りも北方謙三の再構成の巧みさだろう。

ちなみにこの北方謙三の『水滸伝』、一応完結してはいるが、物語はまだ続いている。
続編の『楊令伝』が現在執筆中。
全19巻という大長編ではあるが、読み始めると止まらない面白さ故に「長いなぁ」とは感じない。
本来の『水滸伝』を知らない人でも、十分に楽しめる物語だと思う。