家族狩り(天童荒太)

本当は日記を書くように言われてるんだけど、日常生活をさらすのは抵抗があるのでいろいろと本のレビューでも書こうかと。

いろいろ好きな本はあるので、最初に何を書こうか迷ったけど、真面目なところから。
5部作モノです。

幻世(まぼろよ)の祈り―家族狩り〈第1部〉 (新潮文庫)

幻世(まぼろよ)の祈り―家族狩り〈第1部〉 (新潮文庫)

遭難者の夢―家族狩り〈第2部〉 (新潮文庫)

遭難者の夢―家族狩り〈第2部〉 (新潮文庫)

贈られた手―家族狩り〈第3部〉 (新潮文庫)

贈られた手―家族狩り〈第3部〉 (新潮文庫)

巡礼者たち―家族狩り〈第4部〉 (新潮文庫)

巡礼者たち―家族狩り〈第4部〉 (新潮文庫)

まだ遠い光―家族狩り〈第5部〉 (新潮文庫)

まだ遠い光―家族狩り〈第5部〉 (新潮文庫)

凄惨な一家皆殺し事件を軸にして展開する物語です。
家庭崩壊の中で傷つく子供たちの姿を鮮烈に描き出す秀作。

複数の主役がいて群像劇っぽい描き方をされています。
一人は家庭に問題を抱える刑事。一応主人公になるのかな。
一人は美術教師。愛情なんて否定して自分勝手に生きている男。
一人は児童相談員の女性。良心の声的な役割。
彼らが一家皆殺し事件に様々な形で関わりながら物語が展開していく。

著者の天童荒太はあんまり量を書かない作家さん。
その分、各作品の濃度はかなり高い。
うがった見方をすると、その高いメッセージ性は「説教臭い」と取れてしまうかもしれないが、決してメッセージの押し付けをするような作品ではない。

この本に限らず、天童荒太の作品に出てくる人たちは、かなり救いの無い状況にいることが多い。
主に家族の問題によって逃げ場のない子供たち、というのがよく出てくる。
逃げ場のない中、つらい思いをし、心に傷を負って、さらには自ら歪んでしまった子たち。
そういう子供たちがいるという現実を描き出すのと同時に、最後はそういう子供たちに対して、救いはあるんだよ、と優しく訴えかけているような作品を書いている。

なので読んでる最中はかなり痛い。
身勝手な大人の理屈で子供たちが振り回されていく様子なんか、自分が責められているようにも感じる。
自分はそうじゃない、って言い切れない部分があったりするんだよねぇ。

読み終わると、
「あぁ、もっと身近な人たちに優しくしよう」
という気持ちになる作品。

中身はかなり痛くて硬くて暗いのだが、文章自体はとても平易でわかりやすく、読みやすい。
文章一つ取り上げてみても、天童荒太が真剣に頭を悩ませながら一文一文を綴っていることが伝わってくる。
これだけのものを書くとなると、そりゃポンポン立て続けに書くことは無理でしょうな。
あまり量を書かないけど、中身は濃いというのもうなずける。

無理やり批判的に見るとするなら、やっぱり内容の禍々しさかなぁ。
見たくないこと、考えたくないことを書いているから、生理的に拒否反応が出る。
でも、考えたくないことと、考えなくちゃいけないことは、往々にして同じだったりもするわけで。

家庭を築く前に、あるいは家庭を築いている夫婦で読みたい本ですね。